遺伝子操作技術を担う酵素群

 遺伝子操作はDNAを望む位置で切断したり,接続したりすることのできる酵素の発見により可能となった.つまり,もともと自然界ですでに行われていた細胞内での酵素反応を,試験管内で人為的に利用できるようにすることで誕生した技術である.その後, DNAやペプチド合成などにおいて個々の反応を人工的に行えるよう工夫されるにいたって遺伝子操作はいっそう発展するようになってきた.制限酵素(restriction enzyme)は左右対称の数個の塩基配列を認識して必ずその点でDNAを切断できるため,遺伝子操作においてハサミの役割を果たしてきた.たとえばバムエイチワン(Bam HI)という名前のついた制限酵素はGGATCCという塩基配列の2番目のグアニンの位置でDNAを切断する.左右対称なものとしては6塩基認識のみでなく,4塩基(AGCTなど),5塩基(GANTCなど:ただしNはA, G, C, Tのうちいずれでもよい),7塩基(GGTNACCなど),8塩基(GCGGCCGCなど)認識のものなど,現在までに100種類近くの制限酵素がみつかっている.一方,大腸菌やファージからみつかっかDNAリガーゼという酵素は,切断された2本のDNAをもとどおりに接続できる.このほかにもDNAのy端に塩基を付加できる末端ヌクレオチド転移酵素(TdT),DNAを端から削っていくヌクレアーゼ, DNAを特別な塩基配列の位置で印(メチル化)をつけるDNAメチラーゼ, DNAやRNAのy末端にリン酸基を付加できるポリヌクレオチドキナーゼ,逆にリン酸基を除くホス