共同研究開発協定

 これとともに、カールトンは五万ドルの私財を投じ、エクスポネンシャルーバイオセラピーズ社を設立した。メリルとアドヤは、政府の科学者と民間企業が協力して得た成果を共同の利権にできる共同研究開発協定により、カールトンに協力してはたらきはしめた。三人組はひきつづき実験をおこない、予測どおりに連続継代が完全に連続して起こる様子を観察した。最初の世代では、注射したI〇万個のファージのなかで生き残るのは一個だけという割合だった。それが八代目になると、生き残ったファージ数は六万三〇〇〇倍に増大した。こうしたスーパーファージは、体がようやく抗体をつくる四十八時間後には除去されるかもしれなかった。抗体が免疫システムにそのまま残り、またファージが注射されたときに、もっとすばやい攻撃をしかけるとすれば、その患者の体内では二度とファージが作用しない可能性もあった。それでも、ファージが体内にあるあいだは、抗生物質よりずっと有効であるはずだと、カールトンとメリルは信じていた。一個の細菌を殺すには、ふつうI〇個からI〇〇個の抗生物質の分子が必要である。つまり、分子は徒党を組んで細胞に向かっていかなければならない。一方、一個のファージは一個の細菌細胞を殺し、その工程で二〇〇個の娘ファージを増殖する。一時間もしないうちに、この二〇〇個の娘たちが、それぞれ二〇〇以上の細菌細胞を攻撃し、それがこんどは四万個の娘ファージを増殖する。「君は、甘やかされてきたんだよ、リチャード」カールトンが実験結果を報告すると、メリルは言った。「科学というものは、たいていそんなにうまくいかないものだ」メリルとアドヤは、アメリカ合衆国でもっとも重要な薬剤耐性菌を攻撃目標として向かっていく連続継代ファージを育てるよう、カールトンに説得された。バンコマイシン耐性腸球菌フェシウム、つまりVREを攻撃するファージである。