遺伝子ノックアウトマウス

 遺伝子ターゲッティングの技術を応用して標的遺伝子を改変するかわりに,部分的あるいは完全に削除してしまった欠損マウスを,遺伝子ノックアウトマウス(knockout mouse)と呼ぶ.対象とする遺伝子産物が本来持っているはずの機能を,遺伝子欠失によって生じる表現型の変化を観察することで解析できる技術である.

 

 遺伝子ノックアウトマウス作製のプロセスは以下のように要約できる.0まず欠失させたいマウスの標的遺伝子を単離して構造を決定し,この標的遺伝子の一部分をマーカー遺伝子(ネオマイシンで置換して右足遺伝子破壊).@この置換遺伝子を含むDNAをES細胞に導入し,マーカーを指標にして相同組換えを起こした細胞を用いた場合はG 418 という薬剤に抵抗性となった細胞)のコロニーを選別する.@選別された置換標的遺伝子を持つES細胞胚盤胞に注入してキメラ胚を作製する.0キメラ胚を仮親の子宮に移植して生育させキメラマウスを産ませる.@生まれてきたキメラマウスが置換(破壊)された標的遺伝子を持つか否かを尻尾を一部切り取って調整したDNAを材料にしたPCR法によって決定する.子マウスのいくつかは破壊された遺伝子を片方の染色体に持つヘテロ接合体(十/-)である.@これらヘテロ接合体であるマウス同士を交配すると破壊された遺伝子を両方の染色体上に持つホモ接合体(-/-)が得られる.

 

 標的遺伝子が発生に必須な遺伝子であれば,その破壊は発生異常を引き起こすのでホモ接合体は原理的には生まれてこない.そのさいは発生途中で死んだ胚を子宮から取りだし,どの時点で異常を生じて死んだかを解析する.もしマウスかおる程度まで無事に生育すれば,そこから培養細胞系を樹立することで標的遺伝子が破壊されか細胞か実験に使えるようになる.