電気泳動法

 核酸は負電気を帯びているため,適当な担体に保持して電圧をかけると分子量に比例した泳動度を示しながら陰極側から陽極側へと移動していく.寒天からつくられるアガロース(agarose)は化学的にほとんど不活性で毒性がなく電気泳動の徂体として扱いやすい材料である.短時間の泳動度で数十から数万塩基対にも及ぶDNA断片を効率よく分離できるため,遺伝子操作技術が始まった当初から高分子量核酸の分画,解析に頻用されてきた.ゲル緩衝液を加えたアガロースを熱融解し,型に流し込んでから室温で放置して固めるだけで簡単にアガロースゲル担体を作製できる.ゲルの一方にはローム(櫛)を乗せて置いてサンプルを入れるための溝をこしらえておく.これを緩衝液で満たした電気泳動槽に沈ませてサブマリン状態で泳動する.泳動用のバッファーは普通中性だが単鎖DNAのまま解析したいときはゲル緩衝液ごとアルカリにしたアルカリアガロースゲルをつくってアルカリバッファー中で電気泳動する.試料にはあらかじめ混合色素(ブロモフェノールブルー)を加えておき,アガロースゲル中で70%移動するまで泳動しかころに泳動をとめる.ゲルを取り出し,1μg/m Iの臭化エチジウム液に約10分間浸けてDNAのみを染色し,紫外線照射器の下でポラロイドカメラで撮影すればDNAがバンドとして記録される.

 

 数十塩基対以下の小さいDNA断片やタンパク質に対してはポリアクリルアミドゲル電気泳動法(PAGE : polyacrylamide gel electrophoresis)が用いられる.アクリルアミドはアクリロニトリル(acrylonitrile ; CH2二CHCN)を硫酸または塩酸で加水分解して得られたビニル化合物(白色薄片状の結晶)で,粉末・水溶液とも催涙性皮膚剌激性を有する神経比毒物で皮膚からも体内に吸収されるので取り扱いには注意が必要である.ポリアクリルアミドゲルの作製にあたってはアクリルアミドと架橋剤との混合物の水溶液を適当な重合促進剤の存在下で共重合させ,ガラス板で挟んだ1~2mm幅の隙間に流し込んで固まらせる.これを縦型の泳動槽にセットして中性の泳動用緩衝液の中で泳動する.