ウイルスやバクテリアの感染による発癌

 


胃がんの原因の1つとして知られるピ囗り菌もバクテリアの一種がんは遺伝病ではないが、ウイルスやバクテリアの感染が原因となって発生するがんは、一般に考えられているよりすっと多い。 たとえば、肝臓がんは肝炎ウイルス、子宮頸がんはヒトパピロマウイルス(HPV)が原因だ。そしてヘリコバクター・ピロリというバクテリア(細菌)の感染が、胃がん発生のリスクを高めている。

 肝臓がんは、肺ぴんと胃がんに次いでわが国で第3イ立のがんで、1999年には3万3816人が死んでいる。肝臓がんによる死者の80%(2万フ000人)はC型肝炎ウイルスにより、16% (5400人)はB型肝炎ウイルスによることが判明している。ウイルスが原因の肝臓がんだけで、すべてのがんによる死者30万人の約1割に達している。

 B型肝炎ウイルスがヒトに感染すると、なぜ、発がんしやすくなるのか。ます、B型肝炎ウイルスは肝細胞に感染し、細胞内の染色体にウイルス遺伝子を送り込む。このウイルス遺伝子によってブレーキとアクセルが故障し、細胞の成長・増殖に歯止めがかからなくなると理解でされている。

 一方、C型肝炎ウイルスは、肝細胞の染色体に遺伝子を送り込むことはしない。筆者の推論はこうだ。ます、肝炎ウイルスの肝細胞への感染によって慢|生肝炎が発生し、肝硬変に悪化する。これでは肝臓の本来の仕事である有害物質の処理が十分にできなくなる。この有害物質が肝臓に蓄積し、肝細胞の成長・増殖にかかわるブレーキとアクセルにダメージを与え、変異をもたらすのである。

ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)というバクテリア(細菌)が、胃がんの原因の1つと理解されている。わが国を含めた各国の疫学研究からピロリ菌に感染している人の胃がん発生率は、感染していない人に比べて高いことが確認されている。ピロリ菌は胃がんの危険因子なのである。

 ここで注意すべきことは、すべてのピロリ菌の感染者が胃がんになるとはかぎらないことである。しかもピロリ菌の感染者のうち実際に胃がんになるのは、1割以下である。

 わが国ばかりか世界的にも胃がんの発生率とそれによる死亡率は下がってきている。これは、冷蔵庫の普及により、食物を貯蔵する際に使用する塩分が減少したためである。

 また、わが国の調査で、味噌汁と漬け物の摂取が多い人、すなわち、塩分摂取量の多い人にピロリ菌の感染率が高いことが確認されている。

 塩分やピロリ菌の感染は、胃がんとどんな関係があるのだろうか。

 ます、塩分が胃の粘膜を傷つける。傷ついた粘膜は、ピロリ菌にとって持続感染のための格好の隠れ家となる。

 持続感染によって炎症が起こり、さらに粘膜が傷つく。この傷を修復しようと、細胞は分裂を積極的に繰り返すようになる。このような細胞はDNAの合成が盛んであるから、変異が発生しやすい。

 そして胃には食物といっしょに発がん物質もやってくる。発がん物質が積極的に分裂を繰り返している(つまり、変異しやすい)細胞に取り込まれ、DNAにダメージを与え、変異が起こる。こうしてがんが発生する。ところで、塩酸という強力な酸のために、ふつうのバクテリアなら死に絶えてしまう胃のなかでピロリ菌はよくも生きていられるものだ。

 このからくりは、ピロリ菌が放出するウレアーゼという酵素が握っている。ウレアーゼは、胃のなかに存在する尿素を分解して、アンモニアを生産する。このアンモニアが胃液の塩酸と化学反応することで、ピロリ菌の周辺から塩酸を消費し、快適な住環境をつくっているのだ。

 バクテリアといえども、生物は生きようと必死なのである。