発がんと食生活

 

遺伝子の変異をコントロールするのもヒト!

がんは遺伝子の病気である。こういうと、親から子へ受け継がれる「遺イ云病」と誤解されやすいので、要注意だ。親から子に遺イ云する遺伝病のがんは、確かに存在する。たとえば、小児の目にできる網膜芽腫、小児の腎臓にできるウィルムス腫瘤、皮膚にできるがんの色素性乾皮症などである。しかし、これらはどれも非常に珍しいがんであって、ふつう私たちがかかわるのは、遺伝病のがんではない。

 がんば、両親から受け継いだ遺イ云と、食事、休養、運動といった環境の相互作用によって発生する。では、がんの発生に遺伝的な要因が、どれくらいかかわっているのか。

 2000年、スウェーデンのカロリンスカ医科大のグループは、北欧の約4万5000組の双児を対象にしたがんの疫学研究の結果を、ニューイングランド医学雑誌に発表した。それによると、遺伝的な要因の占める割合は、大腸がん35%、胃がん28%、乳がん2フ%、卵巣がん22%、子宮頸がんO%であった。子宮頸がんはウイルス感染による発がんであるため、遺伝的な要因の寄与はゼロである。

 この疫学研究の結果は、「がんは遺伝的要因が30%、環境的要因が70%の病気である」とまとめることができる。
1996年、ハーバード大のチームもがんの疫学研究の結果を報告している。それによると、がんの原因は、タバコが30%、食事が30%、運動不足が5%、遺伝的要因は5%であった。要するに、ハーバード大のチームは、タバコをやめ、食事を改善し、運動不足を解消すれば、がんの原因の65%が消えると主張する。

 ただし、ハーバード大のチームによる、がんの遺伝的要因が5%という見積もりは低すぎ、むしろスウェーデンチームの30%が妥当に思える。ずいぶん違うと思われるかもしれないが、肝心なことは、両チームともがんは環境的要因の大きな病気であると報告している点である。わが国では、なりやすいがん、亡くなるがんは男女とも胃がんがすっと第

  1位であったが、減りつづけ、1993年には男性の肺がんの死者は胃がんによる死者を追い越した。そして、大腸がん、肺がん、肝臓がんが増えている。女性では乳がんが増え、胃がんを抜いた。

 日本人を襲うがんの種類が著しく変化していることも、がんは環境的要因の大きな病気であることの確実な証拠である。こんな短期間に日本人の遺伝子に変異が発生するはずがないからだ。

 わが国のがんの発生傾向は、大腸がん、肺がん、肝臓がん、乳がんの多い欧米型に近づいてきた。この原因は、脂肪が多く、ファイバー(食物繊維)の少ない食物に変化したからである。たとえば、1960年には脂肪の摂取量は1日1人当たり24.7 gであったが、1999年では約57.9 gに増えている。脂肪が多く、ファイバーの少ない食生活が大腸がんを多発させているのである。

 がんは遺伝子の変異によって発生する病気であるが、食生活を改善することで発症しにくくすることができる。遺伝子の病気であっても、その遺イ云子をコントロールするのは、私たちヒトなのである。