高体重の女児は乳がんになりやすい

 

誕生時の身体測定が成人後の健康管理に役立つ

 新生児が単に「小さい」ために、数十年後に心臓病に代表される生活習慣病になるわけではない。胎児の成長が阻害されたということは、子宮の状態が最適でないことを意味する。この状態が、胎児が出生し、成長して成人した後に心臓病に導く危険因子になっているのである。

 子宮には胎児を成長させる要因かおる一方で、成人になって病気にかかりやすくする要因もある。新生児の体重は、このどちらにも影響する多くの複雑な要因を示す1つのマーカーであると理解すればよい。

 たとえば、新生児の腎臓がとても小さかったとしよう。腎臓は血圧をコントロールする臓器である。これが小さすぎると、血圧のコントロールがうまくいかす、高血圧が発生する。そして高血圧が高じれば心臓病にかかる。

 また、低タンパク質の食餌を与えられた母親から生まれたラットが、高血圧になることも証明されている。つまり、胎盤酵素は胎児に悪影響をおよばす有害物質が胎内に侵入するのを妨げている。しかし、タンパク質が不足すると、この酵素が不足するため、コルチゾールやアドレナリンといったストレスホルモンなどの有害物質が胎内に入ってきて、胎児期のラットの血圧を上げるのである。

 しかも子ラットの血圧は、生まれてからタンパク質をふつうに含む食餌を与えられても、高いままである。胎児期に大量のストレスホルモンに接することが、ラットの血圧の設定点を不可逆的に上げたのである。別の研究では、栄養不足の母親の胎内で育った動物は、肝臓と腎臓が小さく、血管に柔軟性が足りないことが確認されている。これはあくまでも動物実験のデータであるが、ヒトでも似たようなことが起こる心配がある。すなわち、もし肝臓が小さければ、中年になって高コレステロール血症に悩まされやすいし、小さな腎臓は高血圧と心臓病の原因となる。

 最も驚かされるのは、乳がんと胎児プログラミングの密接な関係である。乳がんの存在それ自体、女性にとってひどく嫌なことである。さらに彼女たちを怖がらせるのは、30歳までに出産経験がないことや母親が発症したといった、これまでに知られている危険因子を持たない女性にも乳がんの危険性が迫るからだ。

 ハーバード大の公衆衛生学者カリン・ミッチェルは、これまで見落とされていた乳がんの因子を発見した。彼女と共同研究者は、1万人以上の看護婦の出生記録を集めて分析し、出生時の体重が約2.5kgたった女性が乳がんにかかる危険度は、4.8 kgだった女性の半分であることを発見した。

 このことは50歳またはそれ以下の女性の乳がんにあてはまる。ミッチェルは、「乳がんの源は、この世に生を受ける前にすでにある」と語っている。

 誕生時の高体重は、乳腺組織をがんに導く子宮の状態を示すマーカーになっている。インスリン、レプチン、エストロゲンといった成長因子は、その名が示すとおり、胎児を成長させる。そして、これらの物質のレベルは女性が太るほど高くなる。もし肥満した女性が妊娠すれば、胎盤を通過して胎児に届いた高レベルの

   成長因子が、胎児を大きくするだけでなく、生後10年以上たった思春期に、乳腺組織がエストロゲンに触れたときに、常軌を逸して増殖するように変えてしまう傾向があるのだ。

 しかし、だからといって胎児を飢餓状態にすればいいというものではない。胎児の成長が妨げられると、乳がんの問題は解消できても、新たな問題が発生するからである。しかし、もしあなたがやや太めの女の赤ん坊として生まれたならば、乳がん検査の結果に注意を払わねばならないのである。

 誕生時のあなたの体重は、あなたの個人的な病気という地雷がどこに埋まっているかを示す地図を提供している。将来の健康を予測するのに役立つのは、誕生時に赤ん坊の体重、身長、胴の太さ、頭の大きさを測定しておくことである。

遺伝子と病気の仕組み;生田哲著より