異常を発見したp53は、その程度を細胞に知らせる

 

いくらDNAダメージが発生したとしても、DNAが複製する前にダメージの箇所の修復が完了していれば、変異は起こらない。つまり、DNA修復機構が正常に機能しているかぎり、がんは発生しない。 DNA修復という大仕事をやってくれるのが、DNA修復酵素である。

 DNAイ|多復酵素のまたの名は、p53というタンパク質である。 p53を指定する遺伝子は、第1フ番染色体にある、がん抑制遺伝子だ。では、細胞でのp53の活躍ぶりを見ていこう。

 細胞内でp53はDNAのまわりをくよなくパトロールし、DNAに発生するダメージを点検している。1[ヨ、24時間、このパトロールはヒトの一生にわたってつづく。警察官が不審な行動の人、怪しい人がいないかと街中を丹念にパトロールするのに似ている。パトロールによって警察官が犯罪を、そしてp53は変異を防いでいる。

 もしDNAにダメージが発見されなければ、p53はDNAに異常がないことを主人である細胞に報告する。細胞は成長・増殖するために、DNAの複製を進める。

 しかし、もしp53がパトロール中にDNAダメージを発見したときには、ただちにダメージの程度を調べて細胞に報告する。この調査結果をもとに、細胞は、DNAダメージを修復するのか、それとも修復をあきらめて、死んでいくかといった選択をする。選択の基準となるのは、傷の程度である。

 もし細胞がDNAの傷を浅いと判断すれば、修復することを選択する。修復の手順は次のようになる。まず、細胞はDNAからmRNA(メッセンジャーRNA)への転写を止める。

   mRNAがなければ、DNAを複製させるのに必要なタンパク質が生産されないから、変異が起こらないのだ。もちろん、細胞の成長・増殖も停止したままだ。

 この間に、細胞はp53に口NAのダメージを猛烈なスピードで修復するように命じる。そして修復が完了したら、報告を受けた細胞は、止めていた転写を解除し、DNAの複製が起こる。こうして細胞は成長・増殖を再開する。