「教える」=「teach」は誤り

 teachは「教える」という意味であることは、ちょっと英語をやった人であれば誰でも知っていると思われる。このことには全然問題はないが、母語を通じて外国語を学ぶことに伴う一つの面白い現象が出てくる。「teach=教える」という等式が成立するならば、「教える= teach」だろうという仮説である外国語学習においては、この種の仮説はきわめて有用なものであり、妥当なものである。しかし「教える=teach」は常に成立するとは隕らないのである。次の英文を考えてみよう。

  (1) When l taught him the news, he looked really surprised.
   (そのニュースを彼に教えたら、すごくびっくりした様子だった)

  (2) Excuse me, but could you teach me the way to the station?
   (すみませんが、駅へ行く道を教えてもらえませんか)
    (3) She taught us all about her wonderful adventures in foreign countries.
  (彼女は外国での素晴らしい冒険について私達に教えてくれました)

  (4) She is the one who taught me this secret.
    (この秘密を教えてくれたのは彼女です)

  (5) She taught me the party was canceled.
    (パーティーがキャンセルされたことを彼女が教えてくれた)

 (1)~(5)の英文は日本人の英語学習者がよく使うものである。( )内の日本文に関しては何の問題もないのであるが英文には問題がある。そう、(1)~(5)のtaught/
teachはすべてまちがいである。

 (1)はWhen l told him the news~.、(2)は~couldyou show/tell me the way~?、(3)はShe told us all about~.、(4)は~who told me this secret.、(5)は
She told me~.でなければならない。

teachを定義すると……

 なぜ「教える=teach」が成立しないのだろうか。またしても英英辞典がその鍵を与えてくれるようである。teachは次のように定義されている。

  to give someone training or lessons on (a particular subject, how to do something, etc.)
  (ある主題について、あるいは何かのやり方などについて誰かを訓練したり、レッスンを与えること)

 このteachの定義で特に注意すべきは、give training or lessonsの部分である。誰かにあることを知らせるというのは「訓練する」ことでもなければ「レッスン
を与える」ことでもない。駅への道を教えること、外国でのさまざまな冒険について教えること、秘密を教えること、パーティーがキャンセノレされたことを教えること、これらのすぺてに関して、この定義の基準を当てはめれば答えは明らかである。

 teachの使い方は例えば次のようである。

  He teaches my daughter science.
  (彼は私の娘の理科の先生です)

  Jane teaches American literature to college students.
  (ジェーンは大学生に米文学を教えています)

  She taught me to play the piano.
  (彼女にピアノを習いました)

  My wife teaches at a local school.
  (妻は地元の学校で教えています)

 こうしてみると、teachというのは確かにtrainingあるいはlessonを人に与えるという性格の動詞である。

 日本語の「教える」にも当然こうしたteachの意味はある。ただし、それだけでなく、「知っていることを他人に知らせる」という意味が日本語の「教える」にはあるところがポイントなのである。これを簡単に示してみると次のようになる。

 したがって、成立するのは次のような不等式ということになる。

  教える≧teach



 
つまり、「教える」の含む意味はteachよりも広いということである。