トリH5N1が種の壁を乗り越えてヒトにも感染!

 

 _ 病原性トリインフルエンザがアジア諸国で猛威をふるい、数百万羽の鳥目類を殺した。トリインフルエンザは、ニワトリ、シチメンチョウといつた家禽類を殺すインフルエンザの型である。

 インフルエンザウイルスというのは、遺伝子にRNAを用いるRNAウイルスである。直径約100ナノm(ナノは100万分の1)のボールと思えばよい。その内側には、合計8本のRNAが遺伝子として詰まっている。

 これがインフルエンザウイルスの遺伝子である。この遺伝子をタンパク質でできたコートが包み、カプシドを形成している。さらに、このカプシドが脂質の2重層でできた膜に包まれることで、ウイルス粒子が完成する。

 ウイルスの外側の膜の表面には、ヘマグルチニン(H)という「スパイク」と、ノイラミニダーゼ(N)という「ハサミ」が突き出ている。

 スパイクは感染するときに、ヒトや卜U細胞に密着するための道具である。一方、ハサミは、細胞内で増殖したインフルエンザウイルスを粘液細胞から切り離す役目だ。

 こうして自由になったウイルスが感染を広めていく。

インフルエンザウイルスには多くの種類があるが、その識別は、膜の表面に突き出たHとNの組み合わせによって行う。Hは1番から15番まで、Nは1番から9番まである。1997年に香港を襲ったホンコンウイルスは、Hは5番、Nは1番だから、H5N1と命名された。

 ウイルス感染から回復した人の体内には、抗体というタンパク質ができている。この抗体がウイルスの表面についている特定のヘマグルチニンやノイラミニダーゼに強くくっつくことで、ウイルス感染を抑えている。ウイルスやウイルスを形づくるタンパク質を体内に注入することによって、あらかじめ抗体を誘導しておく、これがワクチンの原理である。

  だが、ある年に生産されたワクチンが翌年にはそれほど効かない、あるいは、全然効かないことさえある。これは、インフルエンザウイルスは絶えず変異し、ウイルスの表面にあるヘマグルヂニンやノイラミニダーゼの姿形が少し変わるためである。

 この変異を「抗原ドリフト」といい、インフルエンザの小流行の原因となっている。

 トリインフルエンザのある株は、ヒトにも感染し発症させる。最も危険な株はトリH5N1で、2004年のアウトブレーク(感染爆発:感染が爆発的に広がること)で死者は24人に達した。

 だが、トリH5N1が種の壁を乗り越えてヒトに感染したのは、今回が初めてではない。 1997年のホンコンで発生した、トリH5N1が18人に感染し、このうち6人が死亡した事件が最初である。